国際シンポジウム「新たな暮らしを豊かにするオープンスペース」Q&Aについて
2021/07/28
IFPRAジャパン設立30周年・World Urban Parksジャパン設立5周年記念国際シンポジウム「新たな暮らしを豊かにするオープンスペース」において、参加者からいただいたご質問を事務局でとりまとめ、講師の皆様からご回答をいただくことができたものについて掲載いたします。
【Q1】
日本では人と自然のつながりという考え方が文化として根付いており、それが住みやすい都市をつくるきっかけになっているのでしょうか。
【A1】
日本文化には、自然に手を入れながら恵みを受け取り、自然もまた豊かになるという、自然と人との共存できる社会をつくる思想と技術がありました。しかし、都市開発がすすむとともに、日本人がかつて持っていた自然とのつながりも薄れつつあります。しかしその地域の自然が失われることは、自然とともにあった暮らしの文化が失われることでもあります。
コロナ禍において、そのような自然も文化も失われた都市は、住みづらい都市であるという認識が生まれたように思います。私たちは自然を媒介に、人と自然、人と人との関りをつくる取組みを行ってきましたが、そのような活動へ参加したいという方々がコロナ以前よりも確実に増えています。かつて日本にあった、自然を身近に感じ、自然に関わりながら、豊かな暮らしを実現してきた文化を、身近な自然や公園を活用しながら、現代に合った形でよみがえらせたいと思います。
(佐藤氏)
【Q2】
ピッツバーグの事例やナショナルパーク・シティの構想にとって、自然とのつながりは重要なコンセプトでしょうか?
【A2-1】
より多くの自然をつくり、自然とのつながりをより豊かにすることは、ナショナルパーク・シティ構想の中心となるものです。ナショナルパーク・シティには三つの核となる目標がありますが、そのうちのふたつがより多くの緑をつくることとより豊かな自然をつくることです。
(Dan Raven-Ellison氏)
【A2-2】
自然とのつながりはとても重要なコンセプトであり、ピッツバーグの事例にとってもナショナルパーク・シティの構想にとっても根幹となるものといえるでしょう。いずれの場合も、公園と自然の質を向上し、人々がそれらを利用しやすくすることを基盤としています。
(Jayne Miller氏)
【Q3】
Dan Ravenさんに質問です。
1)ナショナルパーク・シティ構想とガーデンシティ運動のちがいは何でしょうか?
2)ナショナルパーク・シティはどのようにして都市全体の物理的側面を担う計画にうまく位置づけられるでしょうか?
3)マレーシアのような発展途上国の多くでは、オープンスペースは国立公園・州立公園・都市公園・地域公園・近隣公園といった階層の中に位置づけられることが一般的です。ナショナルパーク・シティはこうした枠組のどこにうまく位置づけられると考えられますか?
【A3】
1)
共通点はありますが、ガーデンシティ運動の重点は新たに都市を開発することと、計画という手段で影響力を及ぼすということにありました。都市により緑豊かにするといった目的のいくつかは確かに似ていますが……いわゆるガーデンシティで行われているナショナルパーク・シティのキャンペーンはひとつもありません。むしろ私たちは、多くの人と協働することで様々な分野や関心を横断し、あらゆる手段を活用して都市に自然を組み込んでいくことを重視しています。
2)
その答えはそれぞれのナショナルパーク・シティによるといえるでしょう。ロンドンの場合、ナショナルパーク・シティには様々なアイデアや影響力が集まってきますが、都市計画上の権限といったものは持っていません。ロンドンの都市計画の責任者であるロンドン市長はロンドンのマスタープランに関してナショナルパーク・シティに言及しており、市内の緑を豊かにするという目標もリンクしていますが、ロンドン市長の計画チームが公的に定めたナショナルパーク・シティ実施方針といったものは一切ありません。こうした体制はいずれ変化するかもしれませんし、都市によってそれぞれ異なる体制になるでしょう。
こうしたトップダウン型の都市政策とのつながりだけではなく、ナショナルパーク・シティ・ロンドンはロンドン市内最大級の約30の開発業者からなる「開発フォーラム」を開催しています。このフォーラムは開発業者と積極的に関わることで、ナショナルパーク・シティの構想と価値観を開発事業に反映させることを目指しています。
また、私個人の興味はナショナルパーク・シティというものが長い時間のなかで都市についての想像力や政策や開発行為をどのように形づくっていくかということにあります。ナショナルパーク・シティで自分たちの住む街について学びながら育った子供たちは、はたして将来どのような建築家やデザイナーや都市計画家や政治家になるでしょうか?
3)
マレーシアの制度を私はしっかりと理解しているわけではないので、こうした質疑を受けることができて嬉しく思います。少なくとも規模と重要性という点でいえば、ナショナルパーク・シティは実質的に国立公園に相当する位置づけになるのではないでしょうか。
(Dan Raven-Ellison氏)
【Q4】
パークコーディネーターが市民と行政を繋ぎ、市民や社会にニーズを顕在化させ実現していくという役割は良くわかりましたが、直接、市民と行政の乖離が無くなれば、あるいは双方が共通言語や意識が生まれれば、中間支援組織が無くても公園を活性化できるのではないかと思います。実はそれが理想ではないかと思います。更に指定管理者が絡まなくてはならないのであれば、とても重い。今の日本で周辺の市民が直接行政とやり取りするためには、何が障害で、どう突破すれば良いと思われますか?
【A4】
市民と行政との乖離がなくなれば、また共通言語や意識が生まれれば、お互いに意思疎通ははかれると私も思います(1)。また協働や連携を実際に進めるには、もうひとつ必要な点があります。事業を具体的に実現していく技術-企画運営、安全管理などを協働の視点で進めるトータルマネジメントーが必要です(2)。
まず(1)については、もちろんそうなればよいのですが、その実現は非常に難しいと感じています。この課題に30年ほど向き合ってきた中で出した結論が、今回お話した内容です。
なぜ難しいかというと、行政の中の一人一人は、知識や経験がそれぞれ違い、また数年で異動があります。また市民と一口にいっても一人一人の考え方や知識、経験が違いますので、市民間の調整も必要です。それらを調整(通訳)しながら、目指す方向に向けて連携していくには、協働事業と緑地保全活用、両方の専門性を持つ第三者があると、非常にうまくいくということが、この15年ほどの私たちの取組みで実証されました。
もちろん、そんな仕組みがなくても、うまくいっている例もあるかもしれません。しかし、そういった事例は、調整力のある行政職員や個人の市民が支えている例が多く、担当者が変わったり、市民が高齢化で誰も引き継がなくなると(仕事ではないので、今の時代、引き継ぐ人はほぼ見つかりません)、継続性がなくなってしまうのです。
また(2)について、事業を具体的に実現する技術も、公園という公的施設で事業を行う上で非常に重要な点です。行政の職員や市民と対峙する中で、公園の現場で実際になにか事業をするときのリスクや条件、手法について知識や経験がない方が多いと感じています。公園でのイベント時に事故で死傷者が出て報道されることがありますが、そういった事故が起こらないリスクマネジメントは必須です。
海外ではすでにその課題に気づき、数十年前から専門性を持った中間支援組織が緑地保全活用のハブとして活躍し、大きな成果をあげています。それは、そのような仕組みをつくったほうが、結果として成功するということが理解されているからです。私たちも90年代よりあれこれ試行錯誤してきましたが、日本では指定管理者制度を活用する方法が現実的かつ成果を上げられる方法だと考えています。もちろん、練馬区や世田谷区、三鷹市のように自治体で外郭的なみどりの中間支援組織をつくることも方法のひとつと思います(ただし、行政の介入が大きすぎると、中立的な立場に立ちづらくなるというリスクはあります)。
人口減少の中で、「選ばれる都市」になるかどうかは、都市のみどりをどう扱うかにかかってくると思います。いままでの仕組みを変えていくことはエネルギーがいりますが、このような仕組みを導入するかしないかで、5年後、10年後の公園と地域の姿は確実に変わってくるはずです。
(佐藤氏)
【Q5】
今後、高齢者人口の増加が予測されますが、認知症や孤独・引きこもりの予防のために、気軽に運動でき、人と交流できる場所として公園やオープンスペースは有効だと思いますがいかがお考えでしょうか?定期的に通える場所とするためにレクリエーションコーディネーターや健康運動指導士などの人材の配置も重要かと思いますが、定期的に通って健康に効果が上がった場合は、費用が健康保険から支払われるような仕組みも効果的かと思います。お考えをお聞かせください。
【A5】
すでに都市公園で提供されているプログラムでは、体を動かしたり、自然を楽しんだり、森林浴を勧めたり、身体的精神的な健康を助け、サークル活動などを通して社会性を保つなど、場合によっては就労の機会提供や支援を行っています。
英国や欧州では、医療以前に非医療的なアプローチを通して市民生活の質を向上させるプログラム、“Social Prescribing”「社会的処方」という取り組みがあります。この取り組みの内容は、先に挙げたプログラムと何ら変わりがありません。その効果や影響力についての意識の有無については差があります。ロンドン議会は、社会的処方を「人々が健康と幸福を改善するための非医療的援助」と定義し、地元地域のコミュニティ活動に参加することによって実行するとしています。ロンドンのデータでは、年間1,500憶円の医療費が軽減されたとされています。都市民が健康と幸福を改善するために必要な自律的な暮らしを手に入れる支援を行う場所として、公園こそ最適な場所といえるでしょう。
社会的処方においては、人と人をつなぐ役割が重視されており、職能として確立されています。リンクワーカーと呼ばれる彼らの活動は、公園でのコーディネータの役割に似ています。人々が健康と幸福を改善するための非医療的援助することを意識して取組んでいる事例としては、豪ビクトリア州でのヘルスレンジャー、日本でのパークトレーナーなどがあります。
参照:Neil McCarthy:Leadership in Action: A Strategic Approach to Healthy Parks Healthy Cities – Lessons from Japan ,World Urban Parks-Newsletter May,2019
こうした取り組みに対しての原資として、ご指摘の通り、国内でも企業が加盟する健康保険組合の報奨金や生保のインセンティヴ制度などが検討され始めています。健康経営に取組む企業の福利厚生費なども期待されるところです。
(小野氏)
【Q6】
ナショナルパークシティのビジョンと運動、能動的な公園や自然との関係づくりに向かう社会的潮流という話に興味を持ちました。それらの取り組みや動向の中で、国や民族が持つガーデニングの歴史や思想・手法などの庭園文化は、どのように関係して行けるでしょうか?
また、Dan Raven-Ellisonさんへ質問ですが、ナショナルパークシティの運動を行う上で、すでに都市に定着している行政的な植物管理の仕組みや、街の庭師の職能(職業と技術)に対する開発(Development,Education)の取り組みも必要だと思いますが、何か取り組みをしていますか? 私は東京の庭師です。
【A6】
回答待ち
【Q7】<日本語のみ掲載>
我が国の場合、行政計画として、一部の自治体で行っている、市民も参加し、議会承認を得て策定される「緑の基本計画」がグリーンインフラ構想に果たす役割と課題についてご意見を頂ければ幸いです。
【A7-1】<日本語のみ掲載>
ご指摘の点は、重要な視点だと思います。
ただし、現時点で「グリーンインフラ」の概念、定義が確立しておらず、結果として「グリーンインフラ計画」なども制度化できていない、という現状があります。
「インフラ」という用語がついているだけに、誤解を生みがちですが、グリーンインフラについては、国交省は施設ではなく「取り組み」と言っています。
したがって、グリーンインフラ計画というようなものが計画制度になるのは難しいと思われます。
そうすると(つまり、グリーンインフラ計画が制度化できないのであるならば)、計画制度であり、ハードからソフトまでが含められる緑の基本計画の果たす役割は、まさしく今後「グリーンインフラ計画」として認識されるような計画となることだと思います。
しかし、そのためには緑の基本計画の計画内容自体の充実、レベルアップが求められると思います。
具体的には、緑を増やすための緑の基本計画(一人あたりの緑の面積を●㎡/人~◆㎡/人に増やす、といったようなもの)ではなく、その都市を、そこに住む人の暮らしをどのようによくするのか、の目標をしっかり設定し、それを達成するために、どのような緑をどこに、どれくらい確保し、マネジメントしていくのか、というような計画設定ができていくようになるか、そこが課題だと思います。
緑の基本計画策定担当の今後のより高いレベルでの取り組みが期待されます。
(平田氏)
【A7-2】<日本語のみ掲載>
2017年に都市緑地法等の改正があり、官民連携により緑地の機能を最大限に活かし、魅力的なまちづくりに貢献するという方向性が明確となりました。それに伴い、「緑の基本計画」の改定に際しては、これらの法改正を踏まえて、官民連携・パークマネジメント等、新たな視点を位置づけることになりました。これは、「自然環境が有する機能を社会におけるさまざまな課題解決に活用しようとする」グリーンインフラの考え方と同様の方向性です。行政、市民、企業ほか、官民問わずさまざまな主体が連携しなければ、グリーンインフラ構想は実現できません。「緑の基本計画」はそのような連携や協働をベースにマネジメントの視点から計画を立てるものであり、グリーンインフラ構想の実装化を強く後押しするものでもあります。
課題については、「緑の基本計画」もグリーンインフラ構想も官民連携の推進が必須であるにも関わらず、連携を推進するための主体が不明確であるということです。産官学民、さまざまな主体間を調整し、マッチングさせ、現場での実装化をするためには、協働や連携についての技術と経験を持つ中間支援組織が欠かせません。海外では、多くの中間支援組織が官民連携のハブとして、公園の運営管理、また行政界を越えた広域連携のハブとして活躍しています。しかし日本では、そのような中間支援組織の必要性を感じながらも、このような組織の運営を支える仕組みがないことが課題となっています。
日本において、これらの課題解決の方法として提案できるのは、公園緑地の指定管理者制度の活用です。例えば東京都立公園では、94施設中、最高評価(S)公園が9施設(2019年度)、そのうち4施設に中間支援組織が構成団体として入っており、協働や連携による事業が高い評価を得ています。また第1回グリーンインフラ大賞(生活部門)の国土交通大臣賞を受賞したのも、指定管理者制度を活用したみどりの中間支援組織です。西東京市では、指定管理者制度の公募時に、協働の専門スタッフを配置することを条件とし、中間支援組織のパークコーディネーターが配置されており、都市公園コンクールで受賞するなど、高い評価を得ています。このように、中間支援組織がパークマネジメントを促進することで、公園緑地の自然環境の保全と活用、地域コミュニティの醸成、地域経済の活性化が実現することが実証されています。
また「緑の基本計画」策定の際にも、官民連携事業の実績がある中間支援組織の役員等が委員として加わることで、計画の方向性や推進体制の構築に、より具体的で実現可能な提案を加えることができます。
(佐藤氏)